脳の仕組みを色々と調べていると、「髄鞘形成」という言葉に行き当たりました。この髄鞘とは何でしょうか?そしてどんな役割を持っているのでしょうか?
髄鞘とは何か?どんな役割?
上図は神経細胞のニューロンですが、右のほうの長く伸びている直線部分が「軸索」、軸索をバームクーヘンの様に幾つもぐるぐると取り巻いているのが「髄鞘」といわれるものです。
このニューロンは幾つもが繋がって電気信号を伝達しています。そして、その伝達能力(神経伝達速度)は基本的に軸索の径によるのですが、このスピードを大幅にUPするのが軸索を取り巻いて絶縁体として働く「髄鞘」です。
髄鞘は生まれる前(胎生の時期)から発達し10~12歳ごろまでに形成されていきます。大脳の機能発揮はこの髄鞘とシナプスの形成によるものと考えられています。
子どもの健全な発達に「髄鞘形成」は大きく関わっています。
髄鞘形成が不十分だとどうなる(髄鞘形成不全)
髄鞘に関しては、髄鞘が形成された後に障害されておきる「脱髄疾患」と、髄鞘の形成が不完全で障害が起こる「髄鞘形成不全」とがあります。
脱髄疾患は、髄鞘の消失場所によって「手足のしびれ」「運動麻痺」「視力障碍」など様々な症状を引き起こします。脱髄疾患としては「多発性硬化症」「白質ジストロフィー」などがあげられます。
髄鞘形成不全は遺伝性がほとんどで、生後すぐの眼振、発達遅滞、痙性四肢麻痺などの症状を有し、「先天性大脳白質形成不全症(指定難病139)」として指定されています。以下は難病情報センターのサイトからの引用です。
中枢神経系の髄鞘の形成不全により大脳白質が十分に構築されないことによって起こる症候群である。生直後からの眼振と発達遅滞、痙性四肢麻痺、小脳失調やジストニアなどの症状を呈する。代表的なものはペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)である。PMDを含め、下記のこれまでに11疾患が同定されている。
(1)ペリツェウス・メルツバッハ病
(2)ペリツェウス・メルツバッハ様病1
(3)基底核及び小脳萎縮を伴う髄鞘形成不全症
(4)18q欠失症候群
(5)アラン・ハーンドン・ダドリー症候群
(6)Hsp60シャペロン(chaperon)病
(7)サラ病
(8)小脳萎縮と脳梁低形成を伴うび漫性大脳白質形成不全症
(9)先天性白内障を伴う髄鞘形成不全症
(10)失調、歯牙低形成を伴う髄鞘形成不全症
(11)脱髄型末梢神経障害、中枢性髄鞘形成不全症、ワーデンバーグ症候群、ヒルシュスプルング病
難病情報センター/先天性大脳白質形成不全症
軸索成熟と髄鞘形成は脳の発達の極めて重要な要素
一般的に教材などを販売しているサイトが何を根拠に「脳は6歳までに80%が完成する」と言っているかは分かりませんが、脳の容積容量的なものからのものが多いような気がします。しかし、先の大阪教育大学の松本勝信先生のページによれば、シナプス形成、髄鞘形成といった見方からも、6歳くらいで80%が完成すると言っても良いのではないかと思います。
このような脳の機能の局在性の中で、140億とも160億ともいわれれる脳の神経細胞は、個々に独立して機能を発揮しているのではなく、お互いにつながりを持ち合ってその機能を総合的に発揮する。それぞれ異なる機能を持つその神経細胞がお互いつながりを持ち、回路を形成するとき、言い換えれば、シナプスを形成するとき、成人に達すると、1個の神経細胞は他の1000個の神経細胞とつながりを持つようになることが時実(注3)によって指摘されている。この神経細胞の回路であるシナプス形成が、脳の機能の発揮となると言われているものである。
シナプス形成という観点での脳の成熟にはいくつかの節目があるといえる。それはおおよそ3歳前後、6歳前後、10歳前後の3箇所に変曲点があるといえる。まず、成人(20歳)のシナプス形成を基準として考えると、それを100%とするならば、最初の変曲点である3歳頃には既におおよそその60%が形成されており、次の変曲点である6歳頃にはおおよそその80%のシナプスが形成されていると指摘できる。さらに、その次の変曲点である10歳頃には95%以上のシナプスが形成されているといえよう。言い換えれば、3歳で大人の6割、6歳で大人の8割、10歳でほぼ大人に近いところまでシナプス形成は育ってきているといえる。
脳の機能の発揮と教育 / 大阪教育大学 松本勝信
シナプスの形成とシナプス間の連絡というのを基本的な脳の成長と見てよいと思いますが、その神経間の伝達を速めているのが髄鞘ということになります。有髄神経と無髄神経の伝達速度の差は50~100倍と言われています。もし髄鞘がなかったら、瞬時の反応ができなくなるわけですね。
髄鞘が形成され神経が強化されることによりより電気信号が速く流れ、神経経路の枝が増え、人は様々な事を覚え出来るようになっていきます。これは「脳幹」「小脳」「大脳」の成長にも大きく関わっています。
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