脳の構造と役割(子供の脳の発達のための)

脳育に関する基礎知識

初めに…

インターネット上には様々な情報が存在していますが、教材販売業者などのページでは脳の発達についての要約がほとんどで科学的に正確に解説しているものはあまり多くありません。医学や教育学の大学教授や研究室などの論文などの情報は正確ですが、部分的かつ高度すぎて胎児から小学生くらいまで、どのように脳が発達していくのか、その時折に何を考えればよいのかの直接的なヒントになるものは少なく思います。そもそも、脳の全体(包括)的な構造や役割といったものを、読んで理解できる構成になっているサイトが非常に少なく思います。

このサイトでは、子どもの「脳と身体と心」がどのように発達していくのかという事に焦点をおいて、順番に読めば脳の仕組みがある程度、概略でも包括的に理解できるという記事の作成を目標にしてみたいと思います。また脳神経(医)学が進んで諸説が統合、改変される場合はそれに合わせて記事も変更していきたいと思います。

Nouiku.JP
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脳は、様々な部位から成り立っていますが、この記事では、大きく
「大脳」「小脳」「脳幹」を取り上げます。

大脳

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成田奈緒子先生が言ってらっしゃる「おりこうさんの脳」という言葉は大脳新皮質の事を言っておられます。またポールDマクレーン博士の言う「新しい脳(人間脳)」というのも、この「大脳新皮質の右脳・左脳」の事を言っています。久保田脳研の久保田競先生も前頭前野を鍛えなさいって言ってますね。

五感から入ってくる情報を認識・知覚し、整理した情報から応じた運動を命じたり、予想、計算、推理など、知性を司る役割を持っています。いわゆる「認知能力」にかかる部分ですね。

では、大脳の仕組みをみていきましょう。この記事では、大脳皮質大脳髄質脳梁の大きく分けて三つの部分を説明します。

大脳は人間の脳で最も発達した部分で、脳の表面近くには灰白質、それより内側の白質に区別されます。灰白質は大脳皮質、白質は大脳髄質と呼ばれています。大脳半球の表面に多くのしわがあるのは、大脳皮質の面積を大きくするためです。

大脳皮質は、新皮質と辺緑皮質と呼ばれる古皮質原皮質の3層(厳密には6層)から成ります。大脳新皮質は情報をやりとりする部分の違いで4つの葉(前頭葉・頭頂葉・後頭葉・側頭葉)に領域が分けられています。

大脳皮質の新皮質、古皮質、原皮質という分類は3層に分かれているというだけで、それぞれの層構造の中に色んな器官が存在はしていますが、それぞれの皮質が何かの独立した機能を持って存在していると言うわけではありません。前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉の領域についても同じような事が言えます。

大脳皮質(灰白質)

新皮質(大脳新皮質)

大脳新皮質は脳の一番外側にある1~3㎜程度の厚さで100億個以上の神経細胞が集まった組織です。新皮質の層は、前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉という4つの葉(領域)に分けられています。五感から入ってくる情報を認識・知覚し、整理した情報から応じた運動を命じたり、予想、計算、推理など、知性を司る役割を持っています。これらは殆どが大脳新皮質(前頭前野)の機能です。
感覚受容器からの知覚機能や大脳新皮質からの運動指令などを一次機能、記憶や情動、認知という高度の複合的作用を高次機能と言っています。

成田先生の言われる「心の脳」は、前頭葉の部分である「前頭前野」の事でポールDマクレーン博士によれば「新しい脳」ということになります。前頭前野は理性的な状況判断で感情的な偏桃体を制御すると言われています。

古皮質(辺緑皮質、大脳辺緑系)

古皮質の層には海馬脳弓歯状回などが存在しています。

海馬は側頭葉の奥深くにある古皮質の領域にある器官です。記憶のメカニズムには海馬が大きな役割を果たしていて、新しい記憶の貯蔵装置としての役割があります。海馬は新しい記憶が長期記憶として安定するまでの間、近時記憶の貯蔵装置として働いていると考えられています。ちなみに形がタツノオトシゴに似ていることから和名の海馬という名前になっています。

脳弓は大脳辺縁系の複数の領域をつないでいます。脳弓は時空間の記憶と深く関わっている部位で大脳皮質の嗅覚中枢および海馬足からの興奮を受けて、乳頭体に伝える下行伝導路(脳からの情報を骨格筋に伝える)になっています。

歯状回は海馬と海馬采の中間に位置し、歯型のような襞状をしています。歯状回は分子状、顆粒状、多型の三層からなるニューロン構造を持っていて、エピソード記憶を新たに形成するなどの脳機能に関与していると考えられています。

マクレーンが提唱した大脳辺緑系

マクレーン Paul D.MacLean はこの理論を発展させ、Brocaが大脳辺縁葉と呼んだ領域(帯状回、海馬傍回、梁下回、海馬)およびそれと神経結合している視床下部などの皮質下組織を「大脳辺縁系」と提唱した。現在は辺縁系のうち、扁桃体と海馬体の機能が解明されてきている。

https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%84%B3%E5%BC%93

大脳辺縁系は、人の情動・感情といったものを司っています。意志の力ではどうしようもない部分です。海馬は短期記憶、偏桃体は快・不快の情動、帯状回は動機づけといったことに関連しているようです。

原皮質(辺緑皮質、大脳辺緑系)

原皮質(原始皮質)には嗅葉(嗅脳)、梨状葉があります。

嗅葉は嗅脳の前部であり、嗅覚に関与しています。嗅葉は嗅球、嗅策、嗅三角からなっています。嗅葉は「狭義の嗅脳」の一部(前部)です。
梨状葉は前頭眼窩皮質と関連し「においの認知(におい情報の分析)」に関わっているようです。梨状葉も嗅脳の要素部分とされることがあります。

胎生第5週において、半球胞前部の腹側面の内側部で、大脳核丘の前方に続く部分が腹方に向って隆起し、半球腹側面に前後方向に走る高まりを形成する。これを嗅葉(Lobus olfactorius)という。これを半球胞の内面で見ると、嗅葉に一致して側脳室の底に前後方向に走る溝が認められる。
 胎生第3月に入ると、嗅葉の前方部は管状となって半球胞の底から分離し、その前端部はやや膨大した盲端をもって終わっている。この膨大した前端部を嗅球(Bulbus olfactorius)といい、これが嗅窩の上壁の嗅細胞から出る嗅繊維(嗅神経)を受け入れる。嗅球およびその後方に続く管状の部分は、側脳室に続く内腔を持っている。これを嗅室(Ventriculus olfactorius)という。嗅球の壁はその胚芽層から生じる神経細胞によって埋められ、嗅球の後方に続く管状の部分は、嗅球の神経細胞から出て後方に走る神経線維によって埋められて、次第に厚くなり、結局、嗅室は消失し、嗅球もその後方に続く管状の部分も共に充実性となる。この神経線維によって埋められた管状の部分が嗅索(Tractus olfactorius)である。

 嗅索の後方に続く嗅葉の後方部は、半球の腹側面に移行するが、この部分は肥厚して嗅結節(完成した脳に於いては前有孔質 Substantia perforata anterior または嗅野 Area olfactoria と呼ばれる部分)となる。嗅結節の後方に続く半球の腹側面は大脳核丘の前端部の腹側面を被う部分であり、ここには梨状葉(Lobus pyriformis)と呼ばれる特殊な大脳皮質が形成される。梨状葉は前頭葉の腹側面から側頭葉前端部の腹内側面に広がり、前方から後方に向って、外側嗅回疑回半月回、および海馬回鈎(Uncus gyri hippocampi)などの各部に分化する。しかし、ヒトでは、これらはいずれも退化的で、発生が進むと、海馬回鈎以外の部分は識別が困難になる。海馬回鈎の内部には、大脳核のところで述べた扁桃核が存在する。

http://db.kobegakuin.ac.jp/kaibo/has_pp/txt/chu5.html

神戸学院大学カラースライド・データベース / 神戸学院大学
辺縁皮質(大脳辺緑系)について

大脳辺縁系は、古皮質(海馬、脳弓、歯状回)、旧皮質(嗅葉、梨状葉)、中間皮質(帯状回、海馬回)、皮質下核(扁桃体、中隔、乳頭体)の総称です。側坐核は腹側線条体の一部とされているため大脳辺縁系には含めません。
大脳辺縁系の大きな役割は、記憶(短期記憶と長期記憶)と情動(やる気、怒り、喜び、悲しみ等の快不快)です。ワーキングメモリはこの場合の記憶とは全く別物です。

https://kanri.nkdesk.com/hifuka/sinkei2.php

大脳辺緑系については、側坐核が含められたり含められなかったり、古皮質と原皮質(旧皮質)だけを言っていたり、或いは脳幹を含めていたりとインターネット上の情報が様々です。子どもの教育を考える際には、「新しい脳」と「古い脳」という概念のもと、「新しい脳=新皮質」「古い脳=辺縁皮質(古皮質+原皮質)」という事で話を進めます。

★原始脳
古い脳
 爬虫類脳(反射脳)…脳幹、大脳基底核、脊髄
 哺乳類脳(情動脳)…大脳辺縁系(偏桃体、海馬体、帯状回)
新しい脳
 人間脳(理性脳)…大脳新皮質(右脳、左脳)

大脳髄質(白質)


大脳髄質には、大脳基底核が存在します。

大脳基底核

大脳基底核の機能や役割

大脳髄質にある「大脳基底核」は、「大脳皮質(と視床)」と「脳幹」を結びつけている神経の集まりです。大脳基底核は大脳の奥深くにありますが脳の外側にある「大脳皮質」と同じく「灰白質」になっています。大脳基底核は様々な機能がありますが、顕著なのは身体の安定にも寄与していて随意運動の調節を行っているとされています。大脳基底核に疾患が起こるとパーキンソン病(他にもジストニアなど)のような思ったように身体が動かせない症状がでます。また運動調節の他にも、認知機能や学習、感情といった機能も担っていることが分かっています。

大脳基底核を構成するもの

大脳基底核を構成するものとしては諸説があります。

尾状核被殻淡蒼球前障扁桃体 からという説や、
線条体淡蒼球黒質視床下核 からという説

コトバンク(サイト)によると、以下の様に説明されています。

大脳核あるいは基底神経節ともいう。大脳半球の内部にある髄質中に埋もれた神経核。尾状核被殻淡蒼球前障扁桃体より成り,被殻と淡蒼球は一緒になってレンズ核と呼ばれ,このレンズ核は尾状核とともに線条体と呼ばれる。しかし,被殻と淡蒼球とは構造,機能とも異なるもので,レンズ核の外側にある被殻と尾状核は神経細胞に富み,同一の構造機能を示し新線条体と呼ばれるのに対し,レンズ核の内側にある淡蒼球は有髄神経線維に富み旧線条体と呼ばれる。これらの線条体は錐体外路系の運動神経で,骨格筋の緊張を支配し,ここが障害を受けるとパーキンソン症候群などが起る。なお,扁桃体は辺縁系の核といわれる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について

大脳皮質と視床・脳幹を結びつけている神経核の集まり。線条体淡蒼球黒質視床下核からなる。運動調節・認知機能・感情・動機づけや学習などさまざまな機能を担う。

出典 小学館デジタル大辞泉について

また平凡社世界大百科事典では、以下の様に説明されています。

尾状核被殻淡蒼球扁桃体前障総称名。大脳の灰白質は表層の大脳皮質と深部の大脳基底核とに大別される。今日では大脳は終脳と同義に使用されるが,もともと大脳は終脳,間脳,中脳の総体を指す。したがって大脳深部灰白質としての大脳基底核の内容は研究者によって異同があった。

上記五つの構造物を指すのが一般的であるが,これに視床マイネルト基底核を加えることがある。

また扁桃体前障を除外する場合がある。前障は島皮質の一部であり,扁桃体は側頭葉皮質から発達したとする見方があったからである。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について

本サイトでは、細かい構成部位はペンディングとして、大脳基底核は「運動調節、認知機能、感情、動機づけや学習など様々な機能を担っていて、随意運動の実行に重要な役割を果たす」という事で論旨をすすめたいと思います。

脳梁

右脳と左脳を繋ぐ脳梁は2億本以上の軸索(神経線維)からなりたっています。脳梁の形成不全や切断などが起こると認知障害や高次機能障害が生じます。

左右の大脳半球をつなぐ交連線維の太い束で,左右の大脳皮質の間で情報をやり取りする経路となっています。ヒトの場合、約2億~3億5000万の神経線維を含みます。例えば脳梁前部(脳梁膝)は左右の前頭前野を、中部は左右の運動領域を、後部は左右の視覚野を結ぶ線維からなっています。左右の半球で連絡の多いところと少ないところがあり、たとえば手足の知覚領域は半球間の連絡がまったくありません。

ヒトの脳では約2億本の神経線維(軸索)からなる。自閉症スペクトラム障害において再現性よく交連ニューロンの低形成による脳梁形成不全が観察される[1][2][3][4][5]。脳梁の形成不全や外科的な脳梁切断によって認知障害、高次脳機能障害が生じる[6]。主に脳梁は左右の大脳皮質灰白質に含まれる交連ニューロンの軸索とそれをとりまく髄鞘からなる

大脳大脳皮質・大脳髄質・脳梁)についての概略をご説明しました。医療関係者や研究者のなかでも様々な説明が存在していることが、脳の複雑さを表していますね。

大脳は人間らしさの知能や理性といったものを担っているようです。

子どもの脳の発達のために、もう少し学んでみましょう。(小脳、脳幹)

大脳(主に大脳新皮質)の前頭前野は1歳くらいから成長をはじめ6歳くらいから20歳前後までに成熟します。高次機能を獲得した脳は、順序の決定や総合的判断、結果予測、衝動の抑制などが行えるようになります。

小脳

Nouiku.JP
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小脳は脳幹とともに「知覚、運動機能」の役割を担っています。
意識せずとも動く不随意運動、意識して動く随意運動なども小脳や脳幹があるからですね。

成田先生が仰る「身体の脳」はここを指しています。

小脳や脳幹の発達が運動を可能にし身体の発育が進むわけです。逆に知覚や運動が小脳や脳幹の発達を促すわけですから、幼児期の様々な「動き」や「知覚」と言ったものがすごく大切になります。

脳の15%しかない小脳には脳全体の50%も神経細胞が存在しています。小脳の機能は「知覚と運動機能の統合」と言われています。
姿勢制御など身体の平衡感覚を調節したり、血圧や循環調節などの自律神経機能、運動の力の入れ具合など随意運動制御、そして認知機能など知覚分野にも関わることなどが最近分かってきています。

小脳では胎生7カ月(生まれる前)から髄鞘形成をはじめ、生後5~8カ月くらいに終了するそうです。それによって首が座って、お座りが出来るようになり、身体が安定するのです。随意運動に関する髄鞘形成は出生直後から1,2歳までに完成し指先の細かい動きのような随意的な操作ができるようになります。

脳幹

脳幹」は、「間脳」・「中脳」・「橋」・「延髄」から構成されています。生命活動の基本的な役割(呼吸、循環など)を担うとともに、知覚情報を大脳皮質に中継したり、末梢に向かう運動指令を中継する機能を担当しています。

間脳

「間脳」は、「視床」、「視床下部」からなります(解剖学上からは視床、視床上部、視床下部、視床後部の4部分に区別)。間脳の役割は内分泌と自律神経のコントロールです。

中脳

中脳は、上は間脳(視床・視床下部)に、下は網様体につながる神経細胞の集まりです。大脳と脊髄・小脳を結ぶ神経伝導路となります。視覚と聴覚に関係していて視覚聴覚からの刺激による反射などをおこしたり、身体の平衡や姿勢を保つための機能に関係しています。

重要な神経伝達の中継部分と覚えておきましょう。(改めて加筆します)

延髄

延髄には心臓中枢(心拍調整)、血管運動中枢(循環)、呼吸中枢、嚥下中枢といった中枢神経系が集まっています。脊髄と同じような仕組みで明確な境界はありません。

延髄の下部の呼吸・循環の中枢である部分は網様体と言われています。

脳幹→小脳→大脳辺縁系→前頭前野の順序で発達していきます。

脳幹は、心臓や呼吸をつかさどる生命維持装置です。脳幹が動かなくなると生物は死にます。意識に上がることなく勝手に動き続ける部分ですね。

脳は、 脳幹 → 小脳 → 大脳 の順で発達する!(下から上)

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こうしてみると、脳幹は呼吸や循環など生命活動の基礎の部分で、小脳の発達が運動や知覚を可能にし、また知覚刺激や運動が神経経路の接続を作っていき、人間らしい知性や理性を司る大脳を発達させていると言えそうです。これらは独立して別々に発達しているわけではなく、大まかな順序はありますが少しずつ連関をもって発達していっていると考えられます。

幼児の時期からその時期にあった刺激(嗅覚・視覚・聴覚・触覚・味覚)や運動というのがありそうですね。

脳は「大脳」・「小脳」・「脳幹」と大きく三つに分けられますが、

大脳
 ・大脳皮質
   新皮質(葉)…知性部分(知識、計算、推理etc)
   大脳辺縁系(古皮質、原皮質) …感情・本能の部分
 ・大脳髄質(大脳基底核)…随意運動に関与
 ・脳梁(左右脳を連結)
小脳
  運動や知覚
脳幹
  呼吸・反射・循環・嚥下といった生命維持のための神経中枢

ほんとうにざっくりですが、上のような役割になっているんですね。

脳の3つの領域「大脳、小脳、脳幹」の概略を説明しました。次ページからそれぞれの構造と役割について説明します。

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